「所有しているアパートを取り壊して売却したいけど、入居者はどうしたらいいんだろう?」
「立ち退きって簡単にお願いできるものなの?」
こういったお悩みを持っているオーナー様。入居中の方に対して立ち退き、つまり建物の明け渡しを求めるのは簡単なことではありません。
アパートに住んでもらっている入居者の方に、「出ていってください」とお願いするには、それ相応の理由や立ち退き料が必要になり、大変骨の折れる作業であることは間違いありません。
本記事では、所有しているアパートを空にして売却したい方へ向けて、その是非と方法についてお伝えします。
目次
1.アパートの売却のために入居者を立ち退きさせることは難しい
前提として、アパートやマンションなどの賃貸物件は入居者がいても売却することができ、そのまま新しい所有者に売却するのが一般的です。
※オーナーチェンジ:すでに賃貸で入居している人がいる状態で売買されること
むしろ、アパートを売却する時には満室状態に近い方が買い手(投資家)からの評価も上がり、高値で販売することができます。
次の章で説明しますが、入居者に立ち退きしてもらうことは大変な作業です。特に「単純にアパートを売却するから」という理由だけで立ち退きをさせることは難しいので、特段の事情がなければ入居者がいるまま売却するほうが良いでしょう。
アパートの入居者に立ち退きを求めるには、「正当事由」が必要です。これは、借地借家法第28条において、入居者を保護する観点から、オーナー側の都合で正当な事由なく住む場所を追われることがないようにと法律で定められているためです。
正当事由として認められるケースは個別事情により異なります。次の章で主なケースを見ていきます。
2.立ち退きに必要な「正当事由」
正当事由として認められる主なものは以下で説明する通りです。一般的に正当事由が認められるとされているものですが、実際はかなり個別事情によるものが大きく、必ずしも正当事由として認められるとは限らないことを頭に入れておいてください。
2.1.建物が老朽化していて建て替えを行う
建物が老朽化しており、入居者や近隣住民に危険が及ぶなど、耐震性に欠陥が認められる場合は、正当事由になり得ます。ただ老朽化しているというだけでは、入居者の理解を得ることが難しいのが現状ですが、具体的な事故などの事例をあげて説得することで理解を得ていきます。
しかし、ただ単に築年数が経過しているというだけでは、正当事由として認められるとは限りません。
2.2.再開発による取り壊しを行う
所有するアパートが建っている土地が再開発の対象になってしまった場合は、立ち退きのうえ取り壊しをすることになります。再開発による取り壊しは、立ち退きの正当事由として認められます。
2.3.所有者が自ら建物の使用を必要とする事情がある
所有者や所有者の子供がどうしても建物を使用しなければならない事情ができた時も、正当事由として認められる場合があります。
2.4.入居者が家賃を滞納している
入居者が家賃を滞納している場合は、賃貸借契約を解除したうえで、立ち退きを求めることができます。賃貸借契約の解除には、貸主と借主との信頼関係が破壊していることが条件となります。入院や特殊な事情など、特段の理由なくおおむね3ヶ月程度の滞納であれば、賃貸借契約の解除に踏み切ります。賃貸借契約が解除できたら、任意の立ち退きを求めることになります。
2.5.入居者が契約違反をした
入居者が賃貸借契約上の契約違反をした場合も、立ち退きを求めることができます。定められる契約によって異なりますが、問題になりやすい契約違反の例としては、以下のようなものがあります。
・家賃滞納
・同棲
・ペットの飼育
・騒音
契約違反行為が認められ、抗議文などを送っても改善が見られない場合は、契約の解除と立ち退きを求めることができます。
3.立ち退きを求める際のアパート売却方法
立ち退きを求めるには、「いつまでに入居者へ通知しなければならない」など、借地借家法にて定められた決まりがあります。立ち退きを求める際の流れは以下の通りです。
↓
立ち退き料の交渉をする
↓
退去手続きをする
3.1.6か月前までに立ち退きの通知と理由を入居者に説明する
借地借家法第28条で、所有者側から立ち退きを求める場合は6か月前から1年前までの間に通知をしなければならないと定められています。入居者からすれば、直前になって突然立ち退きを求められても困ってしまうのは想像に難くないでしょう。立ち退きを開始することが決まったら、なるべく早く入居者に通知することが重要です。
3.2.立ち退き料の交渉をする
立ち退き料とは、賃貸物件の貸主側の都合で借主に退去を求めるとき、借主の損害を補填するために支払われる費用です。必ず支払う必要があるものではなく、通例として支払われるものです。
入居者側に家賃滞納や契約違反がなく、完全な所有者都合で立ち退きを求める場合は、立ち退き料を支払う必要があります。立ち退き料は、所有者側から一方的に決めることはできず、事情を鑑みたうえで過去の判例を参考にしながら決めていきます。
立ち退き料が必要なケースと不要なケースは以下の通りです。
立ち退き料が必要 | 大規模修繕工事や解体、建替え工事 |
賃貸物件にオーナーが戻ってくるケース | |
立ち退き料が不要 | 賃借人に契約違反がある場合 |
定期借家契約の場合 | |
取壊し予定建物の賃貸借契約の場合 | |
一時使用目的の賃貸借契約の場合 |
立ち退き料の相場や設定方法についてはこちらの記事で詳しく説明しています。
3.3.退去手続きをする
立ち退きおよび立ち退き料について、所有者と入居者で合意形成がされたら、立ち退きに関する合意書を作成し、退去に移ります。双方で合意に至らなかった場合は、明渡請求訴訟という裁判を起こすかどうか判断することになります。
4.売却をスムーズに進めるためのポイント
取り壊して売却したい物件に入居者が住んでいる時、スムーズに売却を進めるためのポイントが3つあります。
・入居者が少ない状態で立ち退きを始める
・新居の提案をする
・立ち退きの期日は余裕を持って早目に設定する
4.1.入居者が少ない状態で立ち退きを始める
アパートに住んでいる入居者を立ち退きさせることは非常に大変な作業で、立ち退き料も多く必要になります。建物の中を空にする予定があるのであれば、退去者が出た後に新たに入居者を入れないなど、建物の入居者を減らしておくと、売却までの流れをスムーズにできます。
4.2.立ち退きの期日は余裕を持って早目に設定する
入居者にとっては、突然オーナーから立ち退きを言い渡されても引っ越し作業や次の住まいの選定があるためすぐに退去することはできません。
6ヶ月前までに立ち退きの連絡をするという決まりがありますが、ギリギリでは入居者からの不満やクレームも出てきてしまうでしょう。立ち退きの期日は余裕を持って設定し、入居者に伝えることが重要です。
4.3.新居の提案をする
入居者は、今住んでいる部屋から退去することになるので、新しい住まいを探さなければなりません。立ち退きを依頼する時には、新居の提案をあわせて行うことで、スムーズな立ち退きを実現させられる可能性が高くなります。
5.入居者が立ち退きに応じない場合は、建物明渡請求訴訟を提訴する
入居者にとっては、「立ち退きを依頼されたアパートを気に入っていて立ち退きをしたくない」ということもあるでしょう。入居者と立ち退きに関する話し合いがまとまらず、正当事由が認められる場合には、裁判によって強制的に立ち退きをしてもらうことになります。
この時、裁判所に提訴するのは「建物明渡請求訴訟」です。他にも、調停という形ですり合わせを行うこともあります。
通常、裁判では「オーナー側に正当事由があるか」、「それを補完する立ち退き料をいくらにするか」といった点が審理されます。判決では「いくらの立ち退き料と引き換えに建物を明け渡す」もしくは「明渡の請求が棄却されるか」のどちらかになります。強制執行になるのは、判決が出ても立ち退きに応じない場合ですが、判決が出てから任意で立ち退くケースが多いため、強制執行が実施されることは稀です。
さいごに
本記事では、アパートを売却する時の立ち退きについて解説しました。
冒頭からお伝えしているように、基本的に賃貸借契約では賃借人の立場が保護されていることから、入居中の部屋から立ち退きをさせるのは非常にハードルの高い行為です。
正当事由が認められたとしても、立ち退き料の支払や新居の斡旋など多くの費用や手間、時間がかかってしまうため、慎重に進めることが大切です。
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