住宅を建てる時の選択肢として、「賃貸併用住宅」があります。
「土地を所有しているけど、自分たち家族だけで済むのはもったいない気がする」
「自宅を建てたいけど、賃貸経営にも興味がある」
このように考えて、賃貸併用住宅の運用を検討する方もいらっしゃいます。
本記事では、「賃貸併用住宅に興味がある」「効率よく資産形成をしたい」という方へ向けて、賃貸併用住宅のメリットやデメリットについてお伝えします。
目次
1.賃貸併用住宅は、賃貸部分と自宅部分を一つにまとめた建物のこと
賃貸併用住宅とは、賃貸部分と自宅部分を一つの建物の中に持つもので、住宅の機能を享受しながら、賃貸部分から家賃収入を得ることができるという特徴があります。
マンションのような集合住宅の最上階に自宅、下階に賃貸の部屋を設けるタイプや、戸建て住宅の一部を賃貸の部屋にするタイプなど、種類は多岐にわたります。
また賃貸併用住宅は、以下のような方法で運用を開始することができます。
・土地から新築する(土地を所有している、相続した、購入した場合)
・自宅や賃貸住宅などの既存物件を賃貸併用住宅に改築する
●賃貸併用住宅の種類
2.賃貸併用住宅のメリット4つ
賃貸併用住宅は、賃貸住宅の要素を持ちながら住宅ローンを利用できたり、土地を有効活用できたりと、多数のメリットがあります。
2.1.自宅面積の割合が50%以上なら、住宅ローンの適用ができる
賃貸併用住宅の最大のメリットは、住宅ローンの適用ができるという点です。
住宅ローンは、通常の賃貸住宅購入時に利用するアパートローンと比較し金利が低く設定されています。
※アパートローンの金利相場が0.8~3%ほどであるのに対し、住宅ローンの金利相場は0.3~1.5%ほど。
多くの金融機関では、自宅部分の床面積が50%以上であることを、住宅ローンが利用できる条件としています。床面積の50%以上を自宅とする必要があることから、賃貸住宅部分の面積も50%未満としなければならないため、住宅ローンを利用する場合には設計に縛りが出てくることを念頭に置いておきましょう。
住宅部分の床面積を50%以上にするケースでは、賃貸経営をしてみたいけど、アパートローンの金利は高くてハードルが高いと考えている方、自宅を改築して賃貸併用住宅に作り変える方にはぴったりの方法です。
2.2.賃貸部分からの家賃収入を住宅ローンの返済に充当できる
2.1の方法で賃貸併用住宅を建てた場合、賃貸部分からの家賃収入を住宅ローンの返済に充てることができます。居住用のみの住宅だと、自己の収入や貯蓄から住宅ローンを返済しなければなりませんが、賃貸併用住宅の場合は家賃収入で自宅部分と賃貸部分のローンを返済することができ、負担が軽減されます。
2.3.相続した土地や所有地を有効活用できる
相続した土地や所有地が広すぎて活用に困っている場合は、賃貸併用住宅を建てることで土地を有効活用することができます。
もちろん自宅を建てることもできますが、広い土地を生かした賃貸併用住宅を建てて賃貸経営をすることで、自宅も手に入れつつ、収益を得ることができます。
2.4.相続税対策になる
賃貸併用住宅は、相続税対策にも活用することができます。
相続の際、土地や建物の価格は時価の7~8割の評価額で計算されます。たとえば1億円で購入した不動産を相続する場合は、7~8割の7~8,000万円が相続資産とみなされます。これが、相続税対策に不動産が有効な理由です。
さらに土地や建物を人に貸すことで、さらに相続税評価額が下がります。不動産を人に貸している建物や土地(貸家建付地)は、自由に解体したり売買したりすることができなくなるためです。
また、小規模宅地等の特例を利用できる場合は、さらに軽減措置を適用することができます。小規模宅地の特例は、一定の条件を満たす場合に相続税の課税価格が80%(自宅部分に対応する土地)または50%(賃貸部分に対応する土地)減額される特例です。
小規模宅地の特例の適用には、被相続人と同居していた配偶者や子どもなどの相続人が、その自宅を相続することが条件となっています。
3.賃貸併用住宅を建てる前に留意すべき点
賃貸併用住宅は、一つの建物に自宅と賃貸住宅という2つの異なる目的の部分を共存させるため、デメリットに感じることもあります。
3.1.入居者からのクレームが直接来ることがある
賃貸併用住宅のデメリットでよく聞かれるのが、入居者様からのクレームが直接来ることがある、ということです。通常は、賃貸住宅のオーナーは離れたエリアに住んでいて、入居者と顔を合わせる機会がありません。クレーム対応も管理会社が行うため、直接クレームを受けることはほぼないと言っていいでしょう。
一方賃貸併用住宅は、同じ建物内にオーナーと入居者が入居しており、直接顔を合わせることもあるでしょう。また、オーナーが住んでいる部屋も把握できます。部屋のトラブルが起こった際に、管理会社ではなく直接オーナーのところへ来てしまう可能性も考えられます。
もちろん、それを苦に思わない方もいらっしゃるかもしれませんが、賃貸経営の手間をなるべく減らしたいと考えている方にとってはデメリットになります。
3.2.入居付けが難しい
賃貸併用住宅には、通所の賃貸住宅とは性質の異なる入居者付けの難しさがあります。
オーナーにとって、入居者からのクレームが直接来ることがデメリットとして挙げられる一方、入居者側も、同じ建物内にオーナーが住んでいることを嫌がることも多いです。もちろん、「オーナーが近くに住んでいて安心」と考える人もいますが、「近くに住んでいて会うのが気まずい」と思われ、入居を敬遠されてしまうケースもあります。
3.3.ローン金利が高い
自宅部分の面積が50㎡に満たない場合は、アパートローンを利用することになります。1章で説明した通り、アパートローンの金利は住宅ローンよりも高く設定されています。(アパートローンの金利相場は0.8~3%)
所有している土地や建物をすべて自宅にして住宅ローンを利用するよりも、返済時の金利が上がってしまいます。
3.4.通常の賃貸物件よりも利回りが下がる
賃貸併用住宅は、通常の賃貸物件よりも利回りが下がってしまいます。所有している建物の一部を自宅として利用しますので、その面積分からは家賃収入を得ることができません。すべての面積を賃貸用として貸し出す通常の賃貸物件よりも利回りが低くなるのは、想像しやすいかと思います。
たとえば・・・
購入価格8000万円の物件を4世帯の賃貸住宅(家賃10万円)として運営する場合:
年間家賃収入480万円÷物件購入価格8000万円=利回り6.00%
購入価格8000万円の物件を2世帯の賃貸住宅(家賃10万円)と、1世帯の自宅として運営する場合:
年間家賃収入240万円÷物件購入価格8000万円=利回り3.00%
3.5.自宅の建築プランに制約が生じる
賃貸併用住宅は、新しく建てる際に収益性を考えた設計にしなければならないため、自宅部分の建築プランに制約が生じることも多いです。
プライバシーを確保するために、出入口や窓の位置などを調整したり、収益性を考えて自宅部分の面積を小さくしたりする必要があるので、通常の自宅を建てる時よりも居住性が低下してしまうことが多いのも事実です。
3.6.売却が難しい
賃貸併用住宅は構造が特殊であることや「賃貸経営をしながら自宅として住みたい」というニーズを持つ買い手が少ないことから、ターゲットが限定されているため売却するのが非常に難しいです。さらに入居者が住んでいますので、取り壊して更地で売却するのも容易ではありません。
賃貸併用住宅は、売却するにしても、建て替えるにしても手間やハードルが高くなってしまいます。
4.賃貸併用住宅の運用に向いている人
ここまで、賃貸併用住宅のメリットとデメリットをご紹介しました。これらを踏まえると、賃貸併用住宅を建てるのに向いている人は「土地を所有している人・相続した人」と「賃貸需要の高い場所に自宅を所有している人」です。
4.1.土地を所有している人・相続した人
相続が発生し、すでに土地を所有している人は、コストの面から賃貸併用住宅の建築・運用に向いています。賃貸併用住宅は、自分たち家族が住むだけのものではなく、人に貸し出し、家賃収入を得られるだけの規模の面積や設備が必要です。
また、自分も住むことになるため、内装や外装にもこだわりを反映させたいというニーズを持った方も多いでしょうから、それだけ建設費用もかさみます。
賃貸併用住宅の場合、土地から取得して建物を建てる、というのはかなりの資金力がないと難しいです。逆に言えば、「土地をすでに所有している人・もしくは相続した人」であれば建物の建築費用のみの支出だけで済みますので、賃貸併用住宅を検討してもいいでしょう。
4.2. 賃貸需要の高い場所に自宅を所有している人
賃貸需要のある場所に自宅を所有していて、その活用方法に困っている人は、賃貸併用住宅に改築しての運用に向いています。駅から近い、人気のエリアであるといった賃貸需要の高い場所に自宅があり、かつそれを活用できずにいる人は、賃貸併用住宅を検討してもいいでしょう。
5.賃貸併用住宅を検討する時の注意点
土地を所有している人が賃貸併用住宅の運用に向いているとはいえ、注意点もあります。
5.1.賃貸需要のない土地に無理に建てようとしない
土地を所有していたとしても、そのエリアの賃貸需要が低かった場合、なかなか入居者が見つからず想定通りの家賃収入を得ることができないケースも考えられます。
所有している土地が賃貸経営に適していないエリアにある場合は、空室リスクを鑑み無理に賃貸併用住宅を建てようとしないことをおすすめします。
・駅から遠い(徒歩10分以上)
・駅から遠いのに、駐車場スペースがない
・坂道の上にある
・近くにスーパーなどの生活に必要な施設がない
・近くに嫌悪施設がある(廃棄物処理場、火葬場、風俗店など)
5.2.賃貸併用住宅の間取りは専門家を相談しながら決める
賃貸併用住宅は、賃貸経営の性質を持っている以上、専門家と相談しながら設計していくことが重要です。
自宅部分の居住性を優先して間取りを決めてしまうと、結果的に思うような収益を上げられないということも考えられます。まずは所有している土地が賃貸経営に向いているのか、賃貸併用住宅としての成功が見込める建物が建てられるのか、相談しながら検討を進めましょう。
6.賃貸併用住宅を建築・購入する方法
ここまでお読みいただき、賃貸併用住宅の運用に向いていると思われた方は、次のような方法で検討を進めることになります。
〇新築で建てる場合
賃貸併用住宅を新築で建てる場合は、複数のハウスメーカーに問い合わせましょう。建築費用や収支などを比較し、最適な建築プランを選びます。
〇中古物件をリフォームする場合
もともと自宅や賃貸物件として使用していた建物を賃貸併用住宅にリフォームする場合もあります。こちらは、賃貸住宅のリフォームを得意とするリフォーム・リノベーション会社に相談し、最適なプランを選びます。
さいごに
今回は、賃貸併用住宅の特徴についてお伝えしました。自宅でありながら、賃貸部分から賃料を得られるといったメリットもあれば、プライバシーや設計の自由度が持てないというデメリットもありました。立地によっても、その後の収益性が大きく変わってきますので、慎重な判断が重要になります。
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