収益物件のオーナーになって行う不動産投資は、株式や債券などの金融商品への投資とはいくつかの異なる点を有しています。そのうちの一つが、所有者に管理責任が発生するということです。物件で起こる事故の責任を問われてしまう可能性があるというのは、不動産投資ならではのリスクと言えます。
今回の記事では、管理者責任が及ぶ範囲の一例である消防設備に関する知識をお伝えします。
すでに物件をお持ちの方はこちらの記事を参考に、自分のアパート・マンションで必要な点検や対策を行っているのか確認をしてみましょう。
消防設備に係る法規とは?
まずは基本的な用語をおさえておきましょう。
消防設備と一口にいっても、それは消火器などの消火設備だけを指すものではありません。他にも自動火災報知機などの警報設備、避難ハッチなどの避難器具など、また火災などの非常事態発生時に火を消すために使用する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設全般を指します。
次に消防設備点検ですが、アパート・マンションのような共同住宅の場合、延床面積150㎡以上の建物に対しては消防設備点検が義務付けられています。
点検の種類は以下の2つです。
- 機器点検…6か月に1回以上行う。外観目視または簡易な操作による確認をする
- 総合点検…1年に1回以上行う。実際に消防設備を作動させ、総合的な機能を確認する 上記の二つをきちんと行い、3年に1回、管轄の消防署または消防出張所の窓口へ報告を行うことが必要です。(消防法第17条3の3)
きっかけはデパート火災から
消防設備点検の始まりとしては、昭和40年代に立て続けに発生したデパートの火災事故における被害拡大の原因の一つとして、消防設備の管理の不備が指摘されたことにあります。
そして消防設備などのメンテナンスについて徹底を期するために点検報告制度が法制化され、昭和50年4月1日に施行されました。
消防用設備等の点検・報告義務が課される対象は、防火対象物の関係者(建物所有者、管理者、占有者)です。つまり収益用のアパート・マンションで投資を行う場合、投資家である物件オーナーにも点検したりその結果を報告したりする義務が発生することになります。
点検は専門的な知識や技能を必要としますので、消防用設備士または消防設備点検資格者に委託することをおすすめします。
もし、定められた消防設備を設置していなかったり、適切にメンテナンスを行っていなかったりする場合は、必要な措置をとるように消防長などに命令される場合があります。
そしてその是正の命令に違反した場合、消防法上は「1年以上の懲役又は100万円以下の罰金」などの罰則が科せられる場合があります。投資活動を行っているつもりが、気づいたら逮捕されていた…という事態にならないためにも、ご自身の物件で適切な消防設備点検が行われているかどうか、管理会社に確認してみましょう。
刑事責任が問われる例も
責任が及ぶ、というのは法令上、もしくは理論上だけの話ではありません。過去の事例では、刑事責任が実際に追及された判例もあります。
平成20年の歌舞伎町ビル火災事件において、避難経路や消防設備などを適切に維持管理していなかったことを理由に、ビル所有者に業務上過失致死傷罪で禁固2年~3年、執行猶予4年~5年の有罪判決が成立しました。(東京地裁平成20年7月2日)
建物の所有者は、適切な消防設備点検及び消防設備の是正を行わないことで、このケースのように刑事責任が追及される可能性もあります。
まとめ
これまで述べてきたように、消防設備とは、非常事態に備えて正常な状態で維持管理されていなければならないものです。
消防設備が正常な状態でメンテナンスされておらず、適切な管理も行われていない場合は消防法による罰則が適用されます。また万が一事故が発生した際に、事故の原因が設備管理の問題と判断された場合には刑事責任をも追わなければなりません。
昨今、雑居ビルの火災事故も発生し、所有者の管理責任が厳しく指摘されています。
適切な設備管理は、罰則、刑事責任などを避けるために管理者責任を果たすということだけでなく、入居者様が安心して暮らせる環境の提供にも繋がります。収益物件をお持ちの方は、ご自身がお持ちのアパート・マンションの消防設備がきちんと維持・管理されているかどうか、この機会に一度確認してみてはいかがでしょうか。