「借地権」とは、地主が所有する土地に借地人が建物を所有する権利(地上権、土地賃借権)です。借地に建つアパートを経営する場合、「借地権」に関する正しい知識を持っていないと、トラブルが生じることが往々にしてあります。
どんなことが原因で借地権トラブルが起こるのか、トラブルにどのように対応すれば良いのか、注意すべきポイントを知っておきましょう。
借地権トラブルが起こる原因
そもそも借地権とは、借主(借地人)の保護を目的として定められた権利です。土地を借りて建物を建てた借主が、地主から一方的に追い出されて住居を失うことのないように保護される権利です。具体的には以下のようなことが規定されています。
- 借地権の期限が切れない限り、地主は借地人を出て行かせることはできない。
- 地主が土地(底地)を売却しても、借地権はそのまま引き継がれる。
- 借地権が切れても建物があれば、借主は地主に「土地を売って欲しい」と要求する権利がある。
- 借地人は、地主に無断で建物を売ることはできない。
- 借地人は、地主に無断で増改築ができない(できるケースもあり)
- 名義人が変わるときは、地主に承諾料を支払う必要がある。
地主側からすると、「借地権があると自分の土地でも自由に使えない」、「売却するにしても、借地権の付いた土地は更地より価値が低くなる」、「地価が上がり固定資産税が高くなった割に地代が安い」などの不満を持ちやすく、借地人側からすると、「何をするにも地主の承諾が必要」という不満が生じやすいのです。
さらに借地権に「旧借地権」と「新借地権」があることも、トラブルが多い原因です。
平成4年(1992年)に新しく「借地借家法」が制定され、地主側の権利が以前よりも大きくなりました。その際、平成4年8月時点で土地を借りていた借地人に対しては引き続き「旧借地法」が適用されることになり、事実上2つの借地法が存在することになったのです。
借地権トラブルで多いケース
以下は、実際に数多く起きている借地権トラブルです。
売却時、地主が譲渡承諾をしてくれない
売却しようと思っても、地主が譲渡承諾してくれないトラブルが存在します。
売却しても地主に不利になるおそれがないにも関わらず譲渡を承諾してもらえない場合は、裁判所へ「承諾に代わる許可の裁判」を求めることができます(借地借家法19条)。
地主に不利にならない譲渡と認められれば、地主に代わって裁判所が譲渡を許可することができます。
合理的な理由もなしに土地の価格を上げると言われた
借地借家法では、物価変動や近隣土地価格の変動、公租公課の変動などの理由があれば、地代の増減額を請求することができます。
そうした合理的理由なしに地主が地代を値上げしてくるようなトラブルもありますが、増額が不当と思われる場合は、妥当と思う額の地代を供託(供託所へ納める)することで、賃料責務を果たすことができます。
しかし、値上げを要求された=供託ではありません。供託するには、まず支払日に地主の住所地へ賃料を持参し、受領を催告します(弁済の提供)。
地主が受領に応じなければ、「受領拒否」として供託の手続きに進みます。
地主から高額の譲渡承諾料を請求された
譲渡承諾料は概ね借地権価格の10%程度ですが、地主が法外な譲渡承諾料を請求してきた場合は、裁判所へ「承諾に代わる許可の裁判」を求める申し立てができます。
買主を厳しく選定していて拒絶されることがある
売却しようと思っても買主の選定が厳しく、拒絶されるというトラブルがあります。
買主が地代を滞納するおそれがない(資力がある)、暴力団など反社会的勢力ではない、建物が違法またはいかがわしい目的に利用されない、など譲渡で地主が不利になるおそれがなければ、裁判所へ「承諾に代わる許可の裁判」を求められます。
借地権トラブルを回避する際の注意点
地主の譲渡承諾を得ずに勝手に建物を売ってしまうと、「無断譲渡」として地主から借地契約を解除され、借地権そのものを失ってしまう場合もあります。
きちんとしたフローを踏み、「承諾に代わる許可の裁判」といった手段に出るとしても、最終手段と考えましょう。
借地権でトラブルが起きそうなときは、互いの立場や気持ちを尊重して、まずは冷静に相談・交渉して解決するのが一番です。短絡的に法的手段へ走るのではなく、きちんと話し合いと承諾を交わした上で話を進めていきましょう。