不動産投資で減価償却費を活用することが節税に役立つことは、ご存知の方も多いでしょう。しかしはたして、減価償却費を利用して帳簿上で赤字になることは、その後の金融機関からの融資に影響しないのでしょうか。減価償却費と融資の関係について考えます。
減価償却費とは?
減価償却費とは、事業用に取得した建物、機械、備品など時間の経過に応じて価値が減少していく固定資産を取得したときに、その取得費用を会計上で一括して計上するのではなく、耐用年数に応じて数年かけて分割し、計上する費用のことです。 不動産投資においては建物や附属設備が減価償却の対象となります。例えば建物の取得費用を減価償却費として数年に分けて計上すると、実際のキャッシュフローは黒字でも、帳簿上は赤字にすることができます。しかもその帳簿上の赤字は、法人の場合でも個人の場合でも、他の所得と損益通算できるのです。
赤字であれば、確定申告をすると払いすぎた所得税が返ってきます。あるいは損益通算して黒字でも、会計上の黒字額は差し引きで減り、その分、所得にかかる税金が安くなります。 ただし、この減価償却の仕組みを利用した節税は、厳密には税金の額を減らしているわけではなく、税金を次年度以降に先送りしているに過ぎません。その分の税金は売却時の譲渡益にかかります。しかし物件の売却時にしっかりと戦略を立てておけばその税金を圧縮することも可能ですので、いつ、どのように売却するのかを見通してから物件を購入されることをお勧めします。
減価償却費で赤字になることで融資への影響はある?
減価償却費を利用して赤字になると税金が安くなることは分かりました。しかし、決算が赤字になってしまうと、金融機関の評価が下がってその後の融資が受けられなくなるのではないか……そう考える方もいるかもしれません。 しかし結論を言えば、減価償却費が多くて赤字になっているという状況でも、金融機関による評価が下がることはありません。金融機関はあくまでもお金を貸した相手がきちんと返済できるかどうか、つまりキャッシュフローを重要視します。
減価償却費はキャッシュアウトを伴わない唯一の経費です。帳簿上に費用が計上されるだけで実際にその金額が出ていくわけではありません。 そこでの赤字が融資に影響することはなく、金融機関は「利益+減価償却費」をしっかりと見て、キャッシュフロー=返済能力を判断します。これは不動産投資に限らず、どのような事業においても同様です。
役員報酬で損益計算書が赤字でも問題ない?
もう一つ、法人の場合で、高額な役員報酬を得ているために会社の損益計算書が赤字になっているというケースがあります。この場合も融資に問題はないのでしょうか。 答えは、このケースも問題なく融資を受けられる、です。オーナー会社では、オーナー社長が会社に利益を残すか、役員報酬という形で個人にキャッシュを移転するかの違いがあるだけです。金融機関はあくまでも「利益+役員報酬+減価償却費」というキャッシュフローを見ています。 付け加えるなら、金融機関は金融庁の定めた金融検査マニュアルに基づいて融資の判断をします。
その金融庁が公開している「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問(FAQ)」という資料には、「減価償却費の負担により赤字となっている債務者」について、金融機関が赤字の要因や返済状況、返済原資の状況を確認し、その上で金融機関が返済能力に問題なしと判断すれば、「その債務者区分を『正常先』と判断して差し支えありません」と記されています。
減価償却費で生じた帳簿上の赤字は、金融機関からの融資の妨げにはならないことがお分かりいただけましたでしょうか。減価償却費と融資、不動産投資の利益最大化のために、この2つを有効に活用してください。