「不動産を買っておくと相読税対策になる」という漠然とした知識は持っていますが、不動産といっても土地から戸建て、一棟マンションまで様々です。実際に相続税対策に有効な物件とは、どんな物件なのでしょうか?相続対策になる物件とならない物件の見分け方を教えてください。
結論を言うと、評価額と市場価格のギャップの大きい収益物件が、相続税対策に向いています。
収益物件を取得すれば、現金で所有する場合と比較して資産の評価額が下がります。ここでのポイントは、あくまでも資産の実際の価値が下がることではなく、資産の評価が下がるということです。現金3億円の評価は同じく3億円ですが、3億円の不動産の評価は3憶円を大きく下回って評価されるということです。
土地の路線価は、一般的に時価の7~8割です。建物も同様なので、単純に考えれば現金で持っているより相続税額も2~3割少なくなります。現金を不動産に換えるだけで評価額が下がり、節税になるのです。
収益物件の場合はさらに、土地の上に建物が立っているため貸家建付地としての扱いになり、土地の評価が更地よりも大きく下がります。加えて、建物を入居者に賃貸しているため、建物の評価も下がります。現金を所有する場合と比較すると4~5割も資産の評価が下がることになります。この評価のギャップを利用するのが、収益物件による相続税の節税方法です。
この仕組みを個人で活用すれば、相続税の圧縮が可能となりますし、法人で活用すれば、株価(自社株)の評価減が可能となります。
◆相続税対策になる物件、ならない物件
相続税対策になる物件とは、相続税評価額と市場価格(時価)とのギャップが大きい物件ということになります。繰り返しになりますが、あくまでもこのギャップを利用するのが相続税対策の基本であり、そのためには評価を下げるのが目的になるからです。
具体的には、特に都心部の物件が相続税の節税には向いています。地方の物件の場合、国の評価額よりも実際の市場価格(時価)が低いケースさえありますのでギャップが取れず相続税対策には向いていません。
また、収益物件は、土地の上に賃貸物件が立っていて人に貸していることで、貸家建付地として、相続税は評価減されます(借地権割合によって異なりますが、20%前後の評価減を受けられます)。
◎個人の場合
個人の相続税対策として資産の評価を下げる方法を説明します。たとえば個人で現金5億円の資産があるとして、この現金で5億円の収益物件を購入することで相続財産(この場合は5億円)の評価が2億5000万円などと下がり、課税対象額も下がります。現金で持っている場合と収益物件に換えた場合との評価の差が大きいほど節税効果が高くなります。
さらに収益物件のいいところは、借入金を賃料で返済できる点です。借入金が返済できなければその財産は担保として押さえられてしまいますが、収益物件は賃料が入ってくるため、評価を下げながら資産を守ることができるのです。なお、個人で取得すれば、取得した時点で相続財産をその相続税評価で評価されるため、相続の直前に収益物件を取得することで資産の評価減を図ることも可能です。
なお、団体信用生命保険に加入している場合は、死亡時に借り入れがなくなってしまうために、相続財産を減らすという効果は得られません。むしろ借り入れのない不動産が残るので、財産は増えてしまいます。しかし1億円の現金を通常の生命保険として受け取ることに比べれば、収益物件の場合相続財産としての評価は現金よりは低くなり、相続税の負担は軽くなります。
◎法人の場合
収益物件の取得を法人で行えば、法人の財産の評価減を行うこともできます。法人の財産の評価減とは、すなわち株式の評価を下げるということです。オーナー社長にとっては、自社株も重要な資産であり、個人の相続財産のなかで大きな割合を占めているケースも少なくありません。
特に、高齢に達したオーナー社長は、事業承継という問題に直面します。株式の承継を伴う事業承継においては、自社株の評価のコントロールも重要なのです。いかに税金を抑えて後継者に株式を譲渡するかということは、会社の存続において非常に大きな問題です。
そこで、法人で収益物件を取得することによって、時価と評価額のギャップが生まれます。この差額部分が自社株の評価減につながる仕組みは個人の資産圧縮と同じです。内部留保の3億円を使って3億円の収益物件を取得することで、先ほどの事例では1億5000万円程度まで評価を下げられます。加えて、減価傲却費を計上できるため、それによって利益を減らし、株価を引き下げることも可能です。
ただし、気を付けなければならないのは、法人で収益物件を取得した場合は取得後3年を経過しなければ、その評価は適用されず実際の取得価額での評価となってしまう点です。個人の場合は収益物件を取得したその日に評価減が発生し、節税が実現できましたが、法人の場合は、より計画的な節税対策が必要です。